自律神経の働きを理解してストレスと向き合おう ~「ポリヴェーガル理論」とは
ストレスに関連して、自律神経の話を耳にすることがよくあると思います。
ポリヴェーガル理論という言葉を聞いたことがありますか?
もともと自律神経系には、交感神経と副交感神経があるというのは良く知られていて
緊張状態の時には交感神経が、リラックス状態の時は副交感神経が優位になってバランスを
とるという話を聞いたことがあるかと思います。
副交感神経を代表する神経に迷走神経というのがあるのですが、実はこの迷走神経には
背側迷走神経と腹側迷走神経の2種類があって、ストレスに直面したときに、これらと
交感神経を合わせた3つの神経のうちのどれが活性化して対応を担うかと言うのは、
そのときのストレスの脅威度によって変わる、と言うのが、ポリヴェーガル理論の概要です。
ストレスへの対処策の一つは、いわゆる「闘争逃走反応」と呼ばれるもので、敵が目前に
現れた時に、生存率を上げるために敵から一目散に逃げて距離をとるか、向き合って攻撃する
ことで脅威に対処しようと言う反応です。これを担っているのが交感神経です。
これよりもさらに差し迫った命の危険が生じた際に生じるのが背側迷走神経の担う
「フリーズ反応」です。これは動物であれば仮死状態とも言えるもので、あまりにも圧倒的な
脅威にさらされた際にフリーズすることで少しでも生存率を上げるために生じる反応だとされています。
人間でもあまりにも驚異的で対処のしようの無い状況に曝された時には、身体が凍り付いたように
動けなくなることがあります。
最後の腹側迷走神経が担っているのは、とりわけ人間がたった一人では自然界で生き抜くことが
出来ないからこそ発達させてきた、いわば集団で守り合い他者と支え合いながら生き抜く対処策であり
「社会的関わりシステム」と呼ばれるものです。
「闘争逃走反応」に見られるように、他者が近づき過ぎるのは危険と反応するのが動物の本能で
別の個体が近づくと交感神経が働き緊張するのがものなのですが、社会的関わりシステムは
別の個体が近づいた時に生じる交感神経の興奮を抑制する働きがあるといわれます。
他人が近づいても「安心しても大丈夫」と自分に思わせ、相手に対してもそう思わせるような
働きをすると言うことです。
これら3つの反応のどれでストレスに対処するかは、認知された脅威度によって変わると言われており
最も高次な社会的関わりシステムが有効に機能している状態にあることで、味方である他者が
近くにいても安心し合えて、過度に攻撃的になったり、過度に逃避的になったり、フリーズしたりせずに
周りの人と協力をしながらストレスに対処することができるようになると言われています。
現在、あなたがストレスに曝されているとしたら、今の自分の状態がどの神経が優位か考えてみましょう。
「闘争逃走反応」の状態でしょうか? それとも極限の「フリーズ反応」でしょうか?
それらの反応はあまりにも長く続くと心身ともに疲れ果ててしまいます。
「社会的関わりシステム」に自分の状態を位置づけるためには、環境の変化や根本的な問題解決が
必要になる場合もありますが、マインドフルネスや、コンパッションによるアプローチも試みられています。
1日の内に優位な神経系が変化することもあると思います。自分で観察してみるのも良いかもしれません。
参考文献:
花澤寿 (2019). ポリヴェーガル理論からみた精神療法について. 千葉大学教育学部研究紀要, 67, 329-337.
感情に点数を付けてみましょう
怒り、悲しい、悔しい、恥ずかしい、感情は私たちにとってなくてはならないもので
私たちは日々様々な感情を体験します。
それだけに私たちは感情に翻弄されます。誰もが自分の感情を上手にコントロールできたら
いいのにと一度は思ったことがあるものでしょう。
感情は誰もがその感情を出そうと思って出すわけではありません。
怒ろうと思って怒ったり、悲しもうと思って悲しんだりすることは普通なくて
(泣きたいと思って悲しい映画を見ることはあるかもしれませんが)
ほとんどの場合は、何かの出来事に反応して自然にその感情が出てきます。
しかし、ひとえに怒り、とか悲しさ、などと言っても、その感情の強さは一定ではなく
その時その時で実に様々です。
認知行動療法では、「感情に点数をつけましょう」ということをやります。
例えば悲しい感情であったとしたら、ミスをして上司に叱られた時に体験した悲しみと、
買って帰ろうと思っていたコンビニのスイーツが売り切れだった時の悲しみは
きっと違う点数でしょう。
そこで、100点満点中で0点はその感情が全くない時、100点はこれまで体験した中で最も
強い悲しみだとして点数を付けてみます。
認知行動療法は、自分自身のストレスや心の動きを、距離を取って客観的に見るという
要素があります。感情は自分自身の中で起こっていることですから、本来客観的に見る
なんていうのはとても難しいものです。それを補助するための工夫として、このように
点数を付けています。
「認知のクセに対処するには -認知再構成法とは-」で紹介したワークでも、ブログ中では
触れませんでしたが、やはり「気分・感情」に点数を付けています。
感情に点数を付けることで、その時自分がどうしてこんなに強い感情を感じたのか、
どうしてこの時とあの時とでは感情の強さが違ったのか、と考えるきっかけになります。
また、アンガーマネジメントとして、怒りを感じた体験とその時の怒りの感情に点数を付けていくことで、
怒りの場面に遭遇した時に「あの時が100点だったから、今は60点くらい」と、自分の怒りを
客観的に見て怒りを爆発させる前に距離を取って付き合う助けになったりもします。
自分が翻弄されている感情があるとしたらその感情を取り上げて、試しに点数を付けてみましょう。
Lear More苦手な行動にチャレンジしてみましょう-認知行動療法の行動へのアプローチ-
前回、認知行動療法の認知へのアプローチの1つとして認知再構成法をご紹介しましたが
「考え方は分かってるんだけれど行動は変わらない。いつものように避けてしまう行動がある」
「こんな風に行動すると後悔するのは分かっているのに、どうしてもやってしまう」と
思われている方もおられるのではないでしょうか。
今回はそのような時に、認知行動療法の行動へのアプローチ法のひとつである「行動実験」に
取り組んでみましょう。
「行動実験」とは、簡単に言えば、これまでなかなか取り組めなかった行動を
実験のつもりで取り組んでみましょう、というものです。
実験をするときには思い付きでやってみるのではなくて、まず取り組む前にしっかり
計画を立てます。いつ、どんな状況で、どんな手順でそれをやるのか、その計画を
読んだ人でも再現ができるように計画をきちんと立てます。
その後に、出来上がった計画に沿っていざ実験となります。
予想通りに行って成功したらそれが一番うれしいですが、もちろん失敗もあります。
しかし、そんなときはこれが「実験」であることを思い出してください。
実験で予想を裏切る結果が出た時には、どう予想と違ったのか、そして何故起こったのかを
きちんと分析していきます。予想を裏切る結果自体が今後の貴重なデータになるわけです。
そうしてきちんと振り返りを行うことで、次の実験に活かすための様々なアイディアが
生まれていきます。
さて、ここで行動実験のワークシートを見てみましょう。(こちらからダウンロードできます)
1.実験の状況 2.予想 3.実験のやり方 とあるところに、できるだけ具体的に計画を
作っていきましょう。
例えば「早起きしてちゃんと過ごす」と書いただけでは、何をするのかわかりません。
「月曜日は朝7時に起きて、すぐに洗面所に行って歯を磨く。朝食を食べる。」とすると
何をするかが分かります。
その方がイメージが具体的になるので「やってみよう」と思いやすくなります。
この計画を立てて実際にやってみて、その結果を 4.実際の結果 に書いてみましょう。
うまく行ったのであれば、どんな風にうまく行ったのか。何が良かったのか、など書いてみましょう。
残念ながらうまく行かなかったら、そのデータを活用するつもりで振り返って書いてみましょう。
何が難しかったか?何が予想と違ったのか?
(例えば、朝食の支度をするには台所が寒すぎるのを予想してなかった)
その上で、次にやるとしたらどのように工夫できるか
(エアコンのタイマーを掛けておく/最初は朝食としたけれどもまずはコーヒー一杯に変更する)
など考えてみましょう。
実験ですから結果に応じて目標や方法を変更するのは自然なことです。
すると、第二回目の実験計画が見えてきます。
そうして、最後に感想を書いてみましょう。
認知再構成法もそうですが、行動実験も繰り返していくものです。
一度で完璧な成功を求めずに、大げさではない、ちょっとずつの変化を実感できるような
実験計画を立てることで、これまでできなかった避けていた行動に少しずつ取り組めるようになりますよ。
Lear More心理療法の世界で最近注目されているコンパッションとは?
当オフィスでは、現在コンパッションを取り入れた集団認知行動療法の参加者様を募集しています。
コンパッション、というのは最近少しずつ心理療法やカウンセリングの世界で知られるように
なってきた言葉ですが、あまり聞き馴染みのある言葉ではないと思います。
コンパッションは、日本語では「思いやり」とか「慈悲」などと訳されています。
皆さんは「思いやり」とか「慈悲」と言った言葉を聞いて、どんな印象を持ちますか?
温かい、とか優しい、仏様の慈悲、とかポジティブな印象を持つ方もいるでしょう。
一方で、中には「思いやり」と聞くと、なんだか軟弱で恥ずかしいような、甘えている
ような印象を持つ人がいるかもしれません。
「慈悲」と聞くと、宗教的な感じがして敬遠したくなったり、きれいごとのようで疑いたく
なったりするかもしれません。
「コンパッション」とは、本来は仏教の用語で「自分や他者の苦悩に細やかに心を寄せ、
それを軽くしたい、防ぎたいと強く願い行動にうつすこと」と言われます。
そこには、素朴な意味での思いやりのニュアンスももちろんありますが、自分の苦しさを
きちんと見て、取り組むといった向き合う意味も含んでいます。
コンパッション・フォーカスト・セラピーは「自己批判」と「強い恥の感覚」に苛まれるあまり
うつ病がなかなか良くならない人へのアプローチとして、認知行動療法や仏教、
マインドフルネスの知見を統合して開発されました。
仏教では四苦八苦と言う言葉もありますが、人間には、人間であると言うだけで避けては通れない
苦しみが無数にあると言われています。コンパッションと言うのは、いわばそのような苦しみに
対しての取り組み方を心理療法として取り入れたものとも言えるでしょう。
コンパッション・フォーカスト・セラピーや、コンパッション・マインド・トレーニングといった
これらの方法は、まずはコンパッションがどのようなものかを知るところからはじまっていきます。
自分の内にコンパッションを養うための方法の一つとして、前回のブログのテーマともなっていた
マインドフルネスを活用します。また、様々なワークに取り組んでいきます。
代表的なものに、思いやりのある他者や自分をイメージしてみるというワークがあります。
少し目を閉じて思いやりのある人を想像してみましょう。
どんな人が浮かんできますか?
また、思い浮かんだその人はどんな表情で、どんな言葉をあなたにかけてくれるでしょうか?
そのとき、あなたはどんなことを感じるでしょうか?
そんなところを足掛かりにしながら、自分に、他者に、コンパッションを向けられるように
進んでいきます。
少しでも興味や関心がでてきたな、と思われた方は当オフィスまでお気軽にご連絡ください。
Lear More今、この瞬間に意識を向ける マインドフルネスとは?
私たちは普段自分の価値観や経験に基づき周りで起きている出来事に自動的に反応していたり、
無意識に過去や未来のことを考えて記憶や感情に巻き込まれたりと多くのパワーを消費しています。
そのため、時には心身ともに疲れてきってしまうこともあるのではないでしょうか。
マインドフルネスとは、「今・この瞬間の自分の状態、していること、感じていることに意図的に
注意を向けて気づき、受け止め、味わい、手放すこと」です。
今リアルタイムで自分の中に起きていることに対して、もう一人の自分を置き一歩引いて興味を
持って観察してみます。さらに、観察されたものがポジティブなものでもネガティブなものでも
良い・悪いと評価を一切せず、「あー今自分こんな感じなんだー」とあるがままに受け止め受け入れます。
マインドフルネスを実践することで負の感情や思考に巻き込まれた状態を修正する手助けとなるため、
自己コントロールやストレスの軽減にもつながります。
ここで、一つマインドフルネスを体験するためのワークをご紹介します。
普段何気行っている呼吸に注目するワークです。
①椅子に腰かける、仰向けに寝るなど力の入らない楽な姿勢になります。
②鼻(もしくは口)から息を吸う・吐く を何分か繰り返し、胸やおなかが膨らんだり縮んだりする様子や体内に出入りする呼吸の流れを観察します。
③途中で雑念が沸いてきたら、取り払ったり巻き込まれたりするのではなく、「今、気がそれたな」と雑念が沸いたことを受け止めてまた呼吸に意識を向けなおします。
どうでしょうか?簡単そうに見えて意外と最初は難しいかもしれません。
中には無意識している呼吸に意識を向けることで、息がしにくくなった方もいるかもしれません。
マインドフルネスはすぐにできるものではなく体験や練習の積み重ねが大切と言われています。
カウンセリングでカウンセラーと一緒に取り組むこともおすすめです。
まずはこの記事を読んで、生活の中でふと思い出したときにぜひ実践してみてください。
参考図書
・伊藤絵美 『セルフケアの道具箱 ストレスと上手につきあう100のワーク』 晶文社
・伊藤絵美 『自分でできるスキーマ療法ワークブック Book1』星和書店