不安、不満、怒り などネガティブだと思われている感情の心理と重要性について
皆さまは日常生活で不安や不満、怒りと言った感情を感じることはあると思いますが、これらの感情は
普通に生活を過ごしていく上ではとても厄介に感じられる方が多いと思います。
基本、そういった感情は不快なものであり、できれば感じたくないものです。
カウンセリングに来られる方にも、不安や不満、怒りを「無くしたい」と相談される方は非常に多いです。
確かに強すぎる不安は心を萎縮させてしまい、何かをしようと思っても怖かったり不安になってできなく
なってしまうことがあります。
学校や仕事に行くのが不安だったり、電車に乗るのが怖かったりして、外出するのが不安になって
行動できなくなることがあります。
また、不満と怒りといった感情は、強すぎると文句が多くなりすぎたり、怒鳴ったりといった
自分でも思ってもないような行動をとってしまい、自分の行動が思ったようにコントロールできなく
なってしまうことから、周囲との人間関係に摩擦を生じさせてしまい、時には大切な人間関係を破壊
してしまうかもしれません。
ただ、こういった不安や不満、怒りと言った感情は人間にとって大切な感情であり、
なくてはならないものだという側面もあります。
例えば、不安が無くなってしまうと、事故や詐欺に遭わないように注意すべき
場面でも、そもそも警戒しようとしないため、気を付けることがやりにくくなってしまいます。
また、不満や怒りといった感情は、満たされていない欲求を満たしたいから頑張ろうといったエネルギーが
わいてきますし、現状への強い怒りが改革や変化への大きな原動力になっているのは歴史が証明しています。
つまり、自動車に例えて言えば、不安はブレーキの役割を果たし、不満や怒りがアクセルの役割を果たしているので、
どちらが無くなっても自動車としては機能しなくなることから、どれだけ重要かと言うことはわかっていただけると
思います。
ただ、不安が強すぎたり、不満が強すぎたりすると、ブレーキを踏みすぎて進まなかったり、
アクセルを踏みすぎて事故を起こしてしまう状態になってしいまい、問題になると思われます。
さらに、強くアクセルを踏みながら強くブレーキを踏むといった矛盾した状態ではエネルギーを消耗する割には
問題解決が進まず、消耗するが動けないといった状態になってしまうことがあります。
こういった不安や不満、怒りと言ったことが現実的かどうかを第三者の専門家を交えて現実的に検討していき、
物の見方や考え方、行動等を修正していくのが認知行動療法であり、そういった感情がどういったところから
来ているのか探求をしていくのが精神分析的心理療法と言っていいのではないでしょうか。
どちらのやり方にも一長一短があり、どちらが良いとは一概に言えませんが、完全にどちらかの方法で
カウンセリングを進める場合もあるのですが、それぞれの要素を取り入れて行っていく場合も多いと思います。
不安や不満、怒りといった感情は大切なものなのですが、強すぎたり、足りなかったりすると
問題になってくるものであり、それに対するカウンセリング的アプローチは多種多様で、
ケースバイケースでの対応になります。
こまち臨床心理オフィスではそういった多種多様なニードにお応えできるように色々な立場の
心理の専門家が在籍しています。
感情的な問題で困っていると感じているのであれば、お気軽にご連絡していただけたら幸いです。
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「心理的安全性」を感じる環境とは?
皆さんは、学校のクラスや部活やサークル、会社の部署やチームなど、自分が所属している集団で
安心感や自由さを感じられていますか?
今回は、アメリカのリーダーシップや組織学習の研究者であるエドモンソンが1999年に提唱した
「心理的安全性(psychological safety)」について、ご紹介します。
(1)「心理的安全性」とは何でしょうか?
「心理的安全性」とは、「このチーム内ではリスクのある行動を取っても安全だ」
「自分の意見や質問、関心、または誤解を、罰せられたり、屈辱を与えられたりせずに、自由に発言できる」と
チームのメンバーに共有されている考え、として定義されています(Edmondson, 1999)。
また、この概念は、チームや組織といった集団レベルで起こる状態像として捉えられるものです。
しかし、最近の研究では、個人が組織やチームに抱く認知や信念として扱うものもあるようです。
(2)「心理的安全性」を確かめるチェックリスト
では、皆さんは、現在所属している集団でどれだけ「心理的安全性」を感じられているのでしょうか?
これは確かめるために、エドモンソンが用いた7つの質問をチェックしてみてください。
①チーム内でミスをすると、批判されることが多いですか?
②チームメンバーと、ネガティブなことや課題を指摘し合うことができますか?
③チームメンバーは、自分とは違うということを理由に他者を拒絶することがありますか?
④チームに対しリスクのある行動しても安全ですか?
⑤チームメンバーに助けを求めにくい雰囲気ですか?
⑥自分の仕事を意図的におとしめるような行動をするチームメンバーはいませんか?
⑦チームメンバーと働くときに自分の才能とスキルが尊重され、活かされていると感じますか?
これらの質問に対して、「全くその通りだ」、から、「全くその通りではない」まで7段階で評価します。
また、①③⑤は逆転項目になっています。この合計得点が高いほど、あなたの所属している集団は
心理的安全性が低いと評価されます。
(3)「心理的安全性」が低いことで、個人に起こる4つの不安
では、所属している組織やチームの心理的安全性が低いと、どのようなことが起こるのでしょうか?
エドモンソンによると、自己印象操作と呼ばれる以下の4つの不安が生じ、チームの中で率直に意見を述べたり、
積極的に行動していったりすることを阻害してしまうそうです。
・無知だと思われる不安
・無能だと思われる不安
・邪魔をしていると思われる不安
・ネガティブだと思われる不安
このような不安が生じると、個人は自分が悪く思われないための印象操作をして、自分を守ろうとします。
そうすると、チームで良い成果を出そうとするよりも、自分をよく見られようと努力してしまい、結果的に
そのチームの生産性が低下してしまいます。
(4)「心理的安全性」を高めるために
では、「心理的安全性」を高めるためにはどうすれば良いのでしょうか?
心理的安全性は、組織の単位で考えていく概念なので、まずはその組織やチームのリーダーの態度や働きかけ、
サポートなどが重要となっています。
例えば、以下のようなことが挙げられます。
〈上司の立場やリーダーの役割を担う人が取り組んでいけること〉
・自由に意見を言い合える機会やルールを設ける
・チームの中で行われている仕事内容や進捗状況を、全員でできるだけ確認し共有できる仕組みを作る
・上司自らが、チームのメンバーに話しかけ、普段から何気なく話し合える関係や雰囲気を作っていく
・日ごろから些細なことでもコミュニケーションを取るよう、声かけやブリーフィングの時間を設ける
しかし、1メンバーとしての個人単位でも、取り組めることがあります。それは、以下の通りです。
〈個人が、組織やチームの心理的安全性の向上のために取り組めること〉
・上司、同僚、部下にかかわらず、相手の意見を否定せずに耳を傾ける姿勢をもつ
・自分の意見を積極的に発言していく
・自分も相手も大切にして、自分の感情や要求を率直に、誠実に、対等に伝えることのできる
自己表現(アサーション)を心がける
・他の人がどんな仕事をしているのか、どのような状況なのか、関心を持つ
組織の関係性は複雑な場合もあるでしょう。リーダーでもあり、同時にメンバーでもある場合もあるかも
しれません。今いる組織・グループの中で、自分がどの立場にいるのかを知っていき、まずは自分の
立場として取り組めることを考えられると良いかもしれませんね。
関連項目→「アサーション」とは アサーションの記事へのリンク
参考文献
Edmondson, Amy (1 June 1999). “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”. Administrative Science Quarterly. 44 (2): 350–383.
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レジリエンス(精神的回復力)を高めるためのカウンセリングという選択
レジリエンスとは、「困難で脅威的な状況 にもかかわらず、うまく適応する能力・過程・結果」とされ
最近国や地方、企業が積極的に取り組んでいるSDGs(持続可能な開発目標)の中にもよく出てくる言葉です。
SDGsの中では、持続可能な世界にするための強さや対処力といったニュアンスがありそうですが
心理学の中で使われると、特に「精神的な回復力」という意味になります。
ストレスを感じない強さというよりも、ストレスなど辛いことがありながらも、そこから自分で
立ち直って、乗り越え適応する力がレジリエンスと言えるでしょう。
そうは言っても人生には乗り越えるのがとても難しい辛いことがたくさんありますし、なかなか自分で
レジリエンスがあると言える人は少なくて、多くの方は「自分はレジリエンスが低いな」と感じられる
かもしれません。
近年の心理学ではこのレジリエンスを資質的な要因と、獲得的な要因との2つの要因から理解する考え方
があり、以下の図のようにまとめられています。
資質的というのは「生まれ持った」という意味で、獲得的は、後天的に獲得する要因という意味です。
それぞれ、どちらかがあればいいと言うわけではありませんが、レジリエンスと言うのは、持って
生まれた資質で決まるというわけではなく、生きていく中で獲得していく、あるいは”獲得できる”要素も
あると言うことです。
レジリエンスの獲得的要因を見ると「問題解決指向」「自己理解」「他者心理の理解」の3つが
挙げられていますが、カウンセリングの中で取り組んでいくことととても近いものがあるのに気が付きます。
カウンセリングでは取り上げる問題の内容にもよりますが、ほとんどの場合、お困りごとの内容を
お聴きする中で、問題を整理して自己理解や問題と関わりのある周囲の他者について距離を取って見られる
お手伝いをし(見立てやケースフォーミュレーションなどと呼んだりします)、問題の解決方法を一緒に
考えていきます。
つまりカウンセリングは、「自己理解」「他者心理の理解」「問題解決指向」を通して、レジリエンスを
高めていく試みだとも言えるかもしれません。
また、レジリエンスの資質的要因についても、完全に資質的な物というわけではなく、後天的に獲得する
こともできると言われています。
例えば「社交性」は、自己理解や他者理解を通して、また、「楽観性」は問題を解決できた経験を通して
少しずつ育っていくこともあるでしょう。
カウンセリングを通して全般的にレジリエンスを高めることで、困難な人生を乗り越える最初の一歩と
することができるかもしれません。
参考文献(もっと詳しく知りたい人)
平野真理. (2010). レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み――二次元レジリエンス要因尺度 (BRS) の作成. パーソナリティ研究, 19(2), 94-106.
平野真理 & 梅原沙衣加. (2018). レジリエンスの資質的・獲得的側面の理解にむけた系統的レビユー. 東京家政大学研究紀要, 58(1), 61-69.
Lear More「あなたのまわりのソーシャルサポート」
以前取り上げたポリヴェーガル理論でも「社会的関わりシステム」という言葉が出てきましたが、
人間という生き物は常に集団の中にあって、人生における様々なトラブルや危機を他者と支え合い
ながら生きてきました。
そのような周囲の他者からの支援のことをソーシャルサポートと呼びます。
ソーシャルサポートが得やすい状態にある人は、そうでない人と比べて困難な状況にあっても
健康な状態を維持しやすいことが分かっています。
ソーシャルサポートには以下の4種類の機能があると言われています。
情報提供機能:問題の解決に必要な情報を提供する
情緒的機能:気持ちに寄り添ったり共感する
道具的機能:問題解決の具体的・道具的な助け
評価機能:自分の行動に適切な評価を与える(褒めたり改善点を指摘する)
あなたが困った時、どんなソーシャルサポートが思い浮かびますか?
身近な存在だと家族や親友、やや遠くなると遠い親戚や離れた友人、かつての恩師など。
SNSでのつながりは、親密さなどによって近いソーシャルサポートにも遠いサポートにも
なるかもしれません。困っている状況によって、どのソーシャルサポートが有効かというのも
変わります。意識できるソーシャルサポートがあれば、困った時に相談したり助けを
求めてみると良いでしょう。
「ソーシャルサポートがある」というのは、単に自分の身近に他者がいることではありません。
普段生活している中では、近くに家族がいて、同級生や先生、同僚や上司が居ます。
しかし、その人たちからのサポートを期待できない場合もあるでしょう。
それだけでなく、身近な人間関係こそが主要なストレス因となる場合も
私たち人間にとってはよくあることです。
仮に身近な人との関係が良好であったとしても、自分の悩みや困り事を、相手に相談したり
打ち明けたりと言うのは、それほど簡単なことではありません。
状況や悩みの内容によって、身近なソーシャルサポートを利用できないこともあるでしょうし
身近だからこそ言えないこともあるでしょう。
「こんなことを話して相手の負担になってはいけない」という思いもサポートから自分を遠ざけます。
カウンセリングはそのようなときの一つの選択肢かもしれません。
カウンセリングでは基本どんなことでも話して良く、尚且つ自分のプライベートな関係の
どこともつながっていない特殊な場所です。
悩みがあるけれども、周りのサポートが見当たらない、サポートはあるのだけれども
状況や内容のために相談することができない。
そんな時には、利用できる新たなソーシャルサポートを作るつもりでお気軽にお問い合わせください。
(参考文献:久田満・飯田敏晴(編著) 2021 コミュニティ心理学シリーズ第1巻 心の健康教育 金子書房)
Lear More自律神経の働きを理解してストレスと向き合おう ~「ポリヴェーガル理論」とは
ストレスに関連して、自律神経の話を耳にすることがよくあると思います。
ポリヴェーガル理論という言葉を聞いたことがありますか?
もともと自律神経系には、交感神経と副交感神経があるというのは良く知られていて
緊張状態の時には交感神経が、リラックス状態の時は副交感神経が優位になってバランスを
とるという話を聞いたことがあるかと思います。
副交感神経を代表する神経に迷走神経というのがあるのですが、実はこの迷走神経には
背側迷走神経と腹側迷走神経の2種類があって、ストレスに直面したときに、これらと
交感神経を合わせた3つの神経のうちのどれが活性化して対応を担うかと言うのは、
そのときのストレスの脅威度によって変わる、と言うのが、ポリヴェーガル理論の概要です。
ストレスへの対処策の一つは、いわゆる「闘争逃走反応」と呼ばれるもので、敵が目前に
現れた時に、生存率を上げるために敵から一目散に逃げて距離をとるか、向き合って攻撃する
ことで脅威に対処しようと言う反応です。これを担っているのが交感神経です。
これよりもさらに差し迫った命の危険が生じた際に生じるのが背側迷走神経の担う
「フリーズ反応」です。これは動物であれば仮死状態とも言えるもので、あまりにも圧倒的な
脅威にさらされた際にフリーズすることで少しでも生存率を上げるために生じる反応だとされています。
人間でもあまりにも驚異的で対処のしようの無い状況に曝された時には、身体が凍り付いたように
動けなくなることがあります。
最後の腹側迷走神経が担っているのは、とりわけ人間がたった一人では自然界で生き抜くことが
出来ないからこそ発達させてきた、いわば集団で守り合い他者と支え合いながら生き抜く対処策であり
「社会的関わりシステム」と呼ばれるものです。
「闘争逃走反応」に見られるように、他者が近づき過ぎるのは危険と反応するのが動物の本能で
別の個体が近づくと交感神経が働き緊張するのがものなのですが、社会的関わりシステムは
別の個体が近づいた時に生じる交感神経の興奮を抑制する働きがあるといわれます。
他人が近づいても「安心しても大丈夫」と自分に思わせ、相手に対してもそう思わせるような
働きをすると言うことです。
これら3つの反応のどれでストレスに対処するかは、認知された脅威度によって変わると言われており
最も高次な社会的関わりシステムが有効に機能している状態にあることで、味方である他者が
近くにいても安心し合えて、過度に攻撃的になったり、過度に逃避的になったり、フリーズしたりせずに
周りの人と協力をしながらストレスに対処することができるようになると言われています。
現在、あなたがストレスに曝されているとしたら、今の自分の状態がどの神経が優位か考えてみましょう。
「闘争逃走反応」の状態でしょうか? それとも極限の「フリーズ反応」でしょうか?
それらの反応はあまりにも長く続くと心身ともに疲れ果ててしまいます。
「社会的関わりシステム」に自分の状態を位置づけるためには、環境の変化や根本的な問題解決が
必要になる場合もありますが、マインドフルネスや、コンパッションによるアプローチも試みられています。
1日の内に優位な神経系が変化することもあると思います。自分で観察してみるのも良いかもしれません。
参考文献:
花澤寿 (2019). ポリヴェーガル理論からみた精神療法について. 千葉大学教育学部研究紀要, 67, 329-337.