壊れたレコードみたいに同じ言葉を繰り返す自己主張ってありなの!?アサーションについてもっと考えてみる。
人は、どれだけAIが発展したとしても、人間関係の中で生きていくしかありません。
だからこそ、自分の気持ちを相手に伝える・主張する「自己主張=アサーション」はとても大切です。
「こまち臨床心理オフィスから」でも最初に扱ったのがアサーションでした。その時にはアサーションも
含めた人間関係の3つのタイプや、上手なアサーションのやり方についてお話しました。
今回はアサーションが大切にしていることは一体何なのか、さらに考えてみたいと思います。
「アサーション」は「他者の基本的人権を侵すことなく、自分の基本的人権のために自己表現すること」です。
アサーションが発展したのは1960年代のアメリカでした。その頃、今よりももっと人種による、また性別による
格差が大きかった時代に、本来持っているはずの自分の権利を主張するための方法として発展してきました。
ただしアサーション=自己主張とは言っても、何でも主張すればよいとか、自分の不満を解消するために
相手を思い通りに動かすものではありません。「アサーション権」という考えを理解することが大切です。
アサーション権は基本的人権に属するもので、相手も含めた誰もが持っている権利です。
例えば以下のような権利があります。
「欲しいものを要求する権利」
誰もが自分の欲しいものを欲しいと要求する権利があります。しかし当然ながら相手もその権利を
持っているわけですから、相手も「断る」権利があります。
相手が期待していたような返事や対応をしてくれなくても、相手を恨むことにはなりません。
「アサーションをしない権利」
アサーションは大事なことですが、得られる結果が、費やすエネルギーや時間と比べて割に
合わない場合や、危険な場合などには、自分を守るためにアサーションをしないという権利があります。
他者に向かって「なぜ自己主張をしないんだ」と責めることはできません。
「あやまちをして、それに責任を持つ権利」
あやまった自己主張をしてもいいです。あやまちをおかしたことのない人間はいません。
失敗しても、人間として、それによって生じた結果を引き受けることが認められています。
お互い、完璧であることはあり得ないわけですから、完ぺきではない自分や相手を責めることはしません。
こういった権利をきちんと理解した上で行うのが本当の意味での「アサーション」だと言われています。
さて、ここでひとつアサーションのテクニックを紹介しましょう。
壊れたレコード法
アサーションには様々なテクニックがありますが、ユニークな名前のついたこのテクニックは、
壊れたレコードのように、何度も何度もただ同じ言葉を繰り返すというものです。
攻撃的なコミュニケーションに、すぐに黙って引き下がってしまうのは良くない場合が多いです。
少なくとも自分にも主張があることを表明することが大切と言われています。
例えば列に割り込んできた人に「次は私の番なので後ろに並んでいただけますか。」という主張を、
全く同じセリフを全く同じトーンで、それだけを繰り返すというものです。
相手が、こちらが何も言わないことを期待して、あわよくば無理を通そうという姿勢が明らかな場合などに、
以外にも効果を発揮する場面があります。ただし、もちろんこれも、上記のアサーション権があるからこそ
成り立つテクニックです。
どのようなテクニックであっても、アサーションの定義である「相手と自分、お互いの人権尊重」の中で、
相手にも権利があることを忘れないことが、一番大切な考え方です。
Lear Moreアンガーマネジメントって結局どうやるの?RICPメソッドを試してみよう。
これまでもたびたび、“怒り”という感情が、いかに人間、生き物にとって大切で、
生きていくために必要かという話をしてきましたが、その一方で「アンガーマネジメント」という
言葉を度々聞くのはどうしてでしょうか?
当然ながら「アンガー(怒り)」を問題に感じる方がそれだけ多いからです。
皆さんも、日々生活をしている中で、怒りに触れて「いやだな」と感じることはたくさんあると思います。
お店の中で店員さんに怒っている人、満員電車の中でケンカが始まりそうな瞬間、もっと身近な人間関係でも、
身近だからこそ怒りに触れることはあるでしょう。そして何より、最も身近な「自分」の怒りについても、
「嫌だな、どうして怒ってしまうんだろう」とか、「こんな言い方したかったんじゃないのに…」と悩んだり、
後悔したりすることもあるのではないでしょうか。
「怒り」はこれまでも見てきた通り健全な感情ですが、「不快」な感情であることも事実です。
さらには「攻撃(暴力だけでなく暴言や、もっと間接的なものも含めて)の前兆(もしくはイコール)」と
思われているために、周りの人にとっても警戒したくなるものです。
確かに怒りは攻撃とつながりやすいものですが、本来は怒りと攻撃は別のものです。
怒っても攻撃しないことはできます。どんなに怒っていても、怒りはコントロール不可能なものではありません。
ただコントロールはできるはずだけれども、そのコントロールがとても難しいのが怒りの特徴です。
だからこそ「アンガーマネジメント」が大切だと言われるのでしょう。
6秒ルールなど様々な方法が知られていますが、結局のところは「ちょっと立ち止まる」ことが
できるようになるための方法です。
ここではRICPメソッドをご紹介します。
これは怒りを感じるのも当たり前という場面で、冷静になるためのイメージトレーニング法として、
さらには怒りの場面での実践法として活用できます。
Relaxation:リラクセーションを使ってリラックスしよう
ゆっくり深呼吸をしてみたり、あなたなりのリラックス法でまずは十分に気持ちを落ち着けましょう。
Imagery:イライラした場面をイメージしてみよう 落ち着いた気持で、最近のイライラした場面をイメージしなおしてみましょう。気持ちが落ち着いていると見えてくるもの、気が付くことがありますか?
Coping statement:コーピングの発話(適応的な考えを思いつこう)
イライラしたイメージの中で、落ち着きを維持するための考え方を見つけてみましょう。
Problem-solving response:問題解決のための方法を考えよう
落ち着いた状態で、どんなことが解決になるか、その場で怒りに任せて攻撃する以外の良い方法(相手のためにも、自分のためにも)を考えてみましょう。
ついつい疲れて帰宅した時に、期待していた家事ができていないパートナーについついイライラ
してしまうAさんは、休日、ソファに座ってまずは呼吸法で気持ちを落ち着けました。
昨日帰宅した時に、部屋が片付いていないのを見つけてカッとなってパートナーに怒鳴ってしまった
場面をイメージしました。気持ちが落ち着いているのもあって、昨日の様な気分にはなりません。
コーピングの発話を考えました。「毎日疲れて仕事をしてきているのを分かってくれていないと思ってしまったんだ。
片付けだって昨日は気にならなかったし、ましてや相手が自分を馬鹿にしてる証拠になんかならないよな。
何でも思い通りになるわけないよね。」
問題解決として、「気になるなら、落ち着いて自分でやればいい。声をかけて一緒にやってもいい。
放っておいても良い。本当に気になるなら、落ち着いて言えばいいんだ。
自分が疲れているのが問題なんだから、ひとまずお風呂にゆっくり入って疲れを取ろう。
仕事を少しセーブできないか、上司に相談してみよう」と、本来の問題に戻ってきて対処する
イメージまで思いつけました。
対応に困った怒りの場面を体験したら、上の流れで毎日毎日、何度も練習をしてみます。
そうして、もしまた似た場面に遭遇したら、落ち着いて実践するために、Relaxationから初めてみましょう。
引用/参考文献「怒りを適切にコントロールする認知行動療法ワークブック」ウィリアム・J・クナウス著
Lear More「攻略!きみのストレスを発見せよ!」プレイしてみた
ここ数年のボードゲームブームの中で、心理学、カウンセリングと関連のあるボードゲームが
いくつか発売されるようになりましたが、その中でも「攻略!きみのストレスを発見せよ!」は、
洗足ストレスコーピング・サポートオフィスの室長にして、認知行動療法のスペシャリストである
伊藤絵美先生の監修によるボードゲームです。
「コーピング」というのは「ストレス対処法」のことで、生活していると絶対ある色々なストレスに
対処する方法を、みんなで遊びながら楽しく増やしていきましょうというゲームです
(詳しくはストレス・コーピングのブログへ→)。
一人プレイ用のモードも含めると全部で4種類のゲームで遊ぶことが出来るのですが、
今回は3人で1.「どっちがイヤ?」自分のストレス発見ゲーム と、
3.「さよならストレス!」自分のコーピング発見ゲームを遊んでみました。
カードに描かれたストレス場面は学校のものがほとんどで、小学生~中学生くらいのプレイヤーを
想定しているようです。今回は皆大人でしたので、昔を想像しながら、あるいは大人に
読み替えながらプレイしましたが、楽しくプレイできました。
1.「どっちがイヤ?」自分のストレス発見ゲーム
ランダムで場に出た2枚から3枚のストレス場面(ストレッサーカード)から、親のプレイヤーが、
「より嫌だろうな」と思うものを他のプレイヤーが当てます。
「教室が暑い」と「友達が急に口をきいてくれなくなった」という2つのストレス場面で、
親が選んだ「とてもイヤ」なストレスは「教室が暑い」。理由は「教室が暑いのが本当に苦手だから」。
小学校、中学校はエアコンが無かったとか、最近はどこもエアコンがついているのだろうかとか、
大人がプレイするとかつての小学生時代へと脱線して盛り上がったりもします。
ちなみに友達が口をきいてくれないというのは、別にあまり気にならないとのこと。
「自分だったら絶対にこっちが嫌だな」と思っていても、相手は意外とそうではないということが
あったりして、何が嫌かは人によって違うんだなというのが発見できます。
3.「さよならストレス!」自分のコーピング発見ゲーム
ランダムに場に出た1つのストレス場面に対して、親以外のプレイヤーが、自分の手札として配られた
「コーピングカード」の中から、うまく対処できそうなカードを選んで場に出します。
親は場に出されたコーピングカードの中から、一番役に立ちそうと思ったカードを選びます。
場に出たのは「友達が1時間待っても待ち合わせ場所に来ない」というストレスに対して、
「どうせ来ないから待たずにやりたいことをやる」「来るから大丈夫とのんびり待つ」という
全く違う対処法が出されていました。
「友達に変なあだ名で呼ばれる」というストレスには「直接嫌だからやめてと伝える」
「先生に相談する」という、これもまた対照的な提案が。選ぶのは親の好みですが、
コーピングを出す人に色々プレゼンされると「ああそうかもな。そうしてみようかな」と言う気持ちに
なってくるところが面白い。自分には無いコーピングを、まさに発見している瞬間かもと思ったりしました。
ということで、2つ遊んだ中では、3.が好感触でした。
ストレスがかかった時にみんながどう対処するのか分かる。相手の発想も分かるということで、
コミュニケーションにも、コーピングを増やすのにも使えるという意見です。
良さそうなコーピングを決める前に「どうしてこのコーピングが良いと思うか」というプレゼンを
聞くのが結構楽しいです。
大人としては社会人Ver.があったらもっと盛り上がるのになあ、というのもありました。
皆さんも、自分のコーピングの幅を広げたい時にぜひやってみてください!

考え方のクセ⑦「公正世界の神話」について
「因果応報」という言葉があります。
人は良い行いをすれば良い報いがあり、反対に悪いことをすれば、かならず悪い報いがあるというものです。
これまで、私たちの身の回りに良いことが起こった時に「あの時の苦労は無駄じゃなかったんだ」と嚙み締め、
憎たらしい人に悪い出来事が降りかかった時に「当然の報いを受けているんだ」と思うことが
ありませんでしたか?
良い出来事や悪い出来事の背景には、必ず納得のいく公平で公正な理由がある。
そんな世界のことを「公正世界」と呼び、世界(人生)というのはそういう風にできているんだと
信じることが「公正世界の信念」です。
「公正世界の信念」は、幼少期の教育の中でさながら「神話」のように、折に触れて大人から伝えられます。
「ちゃんと食べなきゃ大きくならないよ」「良い子にしていたらサンタさんが来てくれるよ」
「頑張ったことは決して無駄にはならないから」など、本質的なメッセージは違えど、いずれも、
自分の行いの結果が、必ず良い未来、悪い未来につながることをどこかで示唆しています。
このような教えは決して悪いわけではなく、子どもが必要な努力や我慢ができるように、
マナーを身につけられるように、人生を自分の力で乗り越えられるようになど、
教育的な意味合いや純粋な願いを前提にして教えられるものです。
しかし、実際の世界(人生)は決して、「公正世界」ではありません。
努力をしても無駄になることもあれば、清く正しく生きても誰にも顧みられないこともあります。
反対にどんなに悪いことをしたとしても、後に至上の幸福を享受することもありえます。
そのようなことが当たり前に起こる、不公平で、理不尽に思える面が多分にある世界です。
自分の身に不幸が訪れた時に、人はその問題を解決し今後の身を守るために、
出来事が起こった「理由(原因)」を考えようとします。
その時、自分の心に現れる「あの時どうしてあんな判断をしてしまったのだろう」
「もっと慎重に行動するべきだった」「あの人の助言を聞いておけばよかった」という自責の念は、
一見すると妥当な反省のように思えるかもしれません。しかし実際には「公正世界の神話」に則った
考えに過ぎない場合もあるのです。
実際には、自分の身に起こってしまった不幸な出来事に、筋の通った理由や原因はなく、
自分の過去の行いとは全く無関係に、その辛い出来事は起こったのかもしれません。
そのように考えることの方が、あるいは恐いと感じるでしょう。
世界が公正でないことを認めることは、世界が実は自分のコントロールの外にあり、
「どうにもできないことがある」ことを認めることになるからです。もしそれを認めたとしても、
出来事が起こってしまった辛さは変わりませんが、少なくとも、これまでのように自分の過去の行いを悔いて、
自分の無能さ、甘さ、弱さなどを責める日々を送り続ける必要は無くなるかもしれません。
参考文献:P.A,リーシック他 2019 トラウマへの認知処理療法 治療者のための包括手引き 創元社
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