PTSDのための治療 持続エクスポージャー療法
”PTSD”という言葉をご存知でしょうか。
事故や暴力、災害 など命の危機が差し迫るトラウマになるような外傷体験に遭遇した際に
生じるとされる心理的な状態のことを指します。具体的な症状としては次のようなものが挙げられます。
・侵入症状
トラウマになった出来事に関連する嫌な記憶がありありとよみがえるフラッシュバックが生じたり、
悪夢を見ることでその記憶が反復されることです
・回避症状
トラウマに関連する記憶や場所、その時の出来事を話すことなを極力避けようとすることです。
・過覚醒症状
集中ができない、過剰に警戒してしまったりちょっとした刺激にもびくびくしてしまう、
睡眠に困難を感じる、イライラするなど、覚醒度が高まることです。
・認知や気分の陰性変化
「世界は危険だ」「自分がすべて悪い」「だれも信用できない」などトラウマを体験したことで過剰に
否定的に自分や他者、政界についてとらえてしまったり、幸福感や愛情などの肯定的な感情を
感じられなくなる、物事への興味や関心が減退するなどの気持ちや考えがネガティブに
変化することです。
これらの症状は衝撃的な体験をした方の心の動きとしては自然なもので、時間の経過とともに和らいで
行くことも多いのですが、中にはある程度時間が経過したにも関わらずなかなか症状が良くならないと
いう方もいます。
そのような方に有用とされている治療が持続エクスポージャー療法(PE療法)と呼ばれるものです。
世界でも日本でもその治療効果が証明されており、PTSDの治療として世界基準のNICEガイドラインでも、
強く推奨されている方法です。
PE療法では、トラウマの後の問題を長引かせる要因として、「トラウマに関連した場面を避けてしまうこと」、
「トラウマに関連した記憶や考え、イメージを避けてしまうこと」、そして「それらによって否定的な
認知を生じてしまうこと」が挙げられ、主に実生活内曝露とイメージ曝露という二つのことに取り組んで
行きます。
実生活内曝露とは、「トラウマに関連した場面を避けてしまうこと」に取り組むものです。
実際には安全であるにもかかわらず強い不安や怖さで生活の中で向き合えなくなっているもののリストを
作り、生活の中で向き合うことにトライして行く方法です。
イメージ曝露とは、「トラウマに関連した記憶や考え、イメージを避けてしまうこと」に取り組むものです。
トラウマとなった体験をセラピーの場で具体的に繰り返し語り立ち戻りながらトラウマ記憶と
向き合う方法です。
PE療法では原則毎週、90分のセッションを行う中でこの二つに繰り返し取り組んでいくことで、
徐々に慣れが生じて、避けていたものは危険ではないと気づけたり、生じた体験も過去のものとして穏やかに
記憶の箱にしまうことができるようになり、問題を長引かせる要因として挙げた「否定的な認知を生じて
しまうこと」が修正されて行くだけではなく、そのほかのPTSD症状も和らいで行きます。
もちろん取り組みには勇気がいることですし、”曝露”と聞くと、その言葉の響からおどろおどろしい
イメージが沸くかと思いますが、セラピストがマラソンの伴走者のようにサポートをしながら、
無理のない範囲で治療の完走を目指します。
このPE療法の研修に今回スタッフが参加をし、当オフィスでも導入して行きたいと考えております。
以下の条件に当てはまる方を募集いたします。
・18歳以上の方
・単回性のPTSDに該当する方 ※複雑性悲嘆(大切な方との死別)を除く
・現在加害者と直接的にかかわらない(同居など)安全な環境が確保されている方
・重度のうつや寛解していない精神病性障害、安定化を先行させる必要のある重度の解離症状、
深刻な自殺リスクや自傷行為が見られない方
・10週間(1セッション90分)午前中に毎週横浜オフィスに来室可能な方
・セッション中の動画撮影が可能な方(指導を受ける際に指導者との間のみで使用いたします)
・ハートクリニックを受診可能な方、もしくは現在医療機関におかかりで主治医の許可が得られる方
まず適応可否の判断のためアセスメント面接を受けていただき、適用となりましたらPE療法導入と
なります。料金は1回13200円です(アセスメント面接は45分8800円)。
ご関心のある方、周りに該当する方がいらっしゃいましたらぜひ横浜オフィスまでお問い合わせください。
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眠れない夜に読みたい本のご紹介です
『眠れぬ夜はケーキを焼いて』著者:午後
1話完結のコミックエッセイです。現在、3巻まで発売されています。
眠れない夜を過ごす主人公の日常が、簡単な夜食やお菓子のレシピ付きで描かれています。
片付けのタイミングが工程の中に含まれていて、レシピの全ての行程が漫画に描かれている点が特徴です。
読んでいると誰かが料理をしているところを見ているようで、一人で居ても独りではないような、
淡々と静かな時間が流れていきます。
強い感動や喜びが欲しいのではなくて、ゆったりのんびり穏やかに過ごしたい、
そんな気分にぴったりの本です。
料理等の手仕事には、気持ちを落ち着かせ、自信を回復させる効果があると言われています。
簡単なレシピで料理やお菓子を作ってみたり、主人公の料理する姿をただ眺めることでも、
孤独な夜、なんだか調子の良くない日をやり過ごす力になるかもしれません。
眠れない夜のお供に、もしくは寝る前のちょっとした読書にお勧めです。
Lear Moreシニア世代の心の悩みとカウンセリングについて
私たちは、日々幅広い年代の方々を対象にカウンセリングをさせていただいていますが、
今回はシニア世代の方々のカウンセリングについてお話させていただけたらと思います。
本来カウンセリングは、自分のことについて専門家である心理カウンセラーと話をしていく中で、
自分の性格や、現在直面している状況についての理解を深めていき、自分なりの悩みの解決策を
探していくサポートをする役割があります。
勿論、それはシニア世代の方々でも同じであり、大きく変わるものではありません。
しかし、人間は年齢を重ねていくにつれて、変わりにくくなっていきます。それは当然で、
性格(人格)とは、その人がよくとる行動パターンや思考パターン、そして感情のパターンの
集合体が性格と呼ばれるものであり、年齢を重ねるについてこうしたパターンは強化され、
固定化されていき、変化し辛くなる傾向があります。
もちろんいくつになっても柔軟な対応ができる方もおられますが。
性格の変化や修正に多大な労力と時間が必要であることに加え、年齢を重ね、自分のパターンを
確立されてきた方々が変化や修正をするためには、より多くのエネルギーが必要になってくるため、
大きなパターンの変化を望むのは難しくなります。
しかし、ではシニア世代のカウンセリングは意味のないことかと言えば、決してそうではなく、
大きなパターンの変化というより、今までの自分の人生を振り返り、それがどのような人生だったか、
そこにどんな意味があったかについて理解をしていくというカウンセリングの側面への比重が大きくなってきます。
勿論、シニアではない世代のカウンセリングでもこれは重要なテーマなのですが、シニア世代では特に重要で、
昔を思い出し、懐かしい思い出を誰かと語ることで自分の人生を振り返り、より生活を活性化することが
できるようになる等の効果がある回想法はとても有効です。
今までの人生を振り返ることで、自分がどのような人生を歩んできたかについての理解を深め、
その意味について誰かに語りながら一緒に考えることは、非常に意味深いです。
大変で、辛い思いばかりして苦労してきた方々には、そんな辛いことや苦しいことは思い出したくない、
話したくないといった方々もおられますし、カウンセリングに来られる、悩んでいるシニア世代の方々には
そういった方が特に多いと思われます。
しかし、それはその方が苦しみや辛さを生き抜いてきた波乱万丈の人生記録であり、
一生懸命に生き抜いてきた証明でもあると思います。
人は自分の人生の物語、文脈の中で生きており、こういった言い方は失礼なのかもしれませんが、
物語とは山あり谷ありといった波乱万丈の物語の方が魅力的であり、興味を感じるものだと思われます。
自分の人生への魅力や意味を、心理カウンセラーに語りながら一緒に再発見していくことが
シニア世代のカウンセリングでは重要なテーマになってくることが多いです。
人間は生涯成長するといった立場では、シニア世代の発達課題として人生の統合ということが挙げられています。
これは今までの自分の人生を振り返り、自分はどのような人生を歩んできて、それは自分にとって
どのような意味があったかについて自分なりに総括していくということですが、
そういった人生の最後の課題を行うために、カウンセリングを受けてみてはいかがでしょうか。
自分の長い人生をじっくり振り返るということは、それだけでもとても意義のあることだということは、
日々のカウンセリングで私が実感していることです。
Lear More悩みを自分で抱える力
「今日はなんとなくパスタが食べたい」「今日はなんとなくこっちの服にしよう」
そういう“なんとなく”思うこと、感じることってありませんか?
「あれが食べたい」とか「こっちの服がいい」というポジティブな感情なら
問題に感じることは少ないかもしれません。しかし、「なんとなくイライラする!」
「なんとなくもやもやする…」という気持ちが積もり積もったり、大きくなりすぎたりすると
困ってしまうかもしれません。
その時に、「なんでこういう気持ちになるんだろう?」と自分で考えられること、
つまり、“悩みを自分で抱える力”というのが大切になってくるのだと思います。
逆に、悩みを自分で抱えられない・抱えきれない状況になると、
身近な人や物に八つ当たりをする、他人や環境のせいにする、
すぐさま状況を打開しようと闇雲に行動する…ということになるかもしれません。
あるいは、不安や苦痛を和らげようともがいているうちに気づけば、お酒や薬、ギャンブル、
買い物、性行為などに依存していたり、自傷行為を繰り返したりしているかもしれません。
そういう「なんとなくイライラする/もやもやする」という気持ちは、不安や悩みの種が明確に
なっていない、あるいは、明確になると葛藤が出てきてもっと辛くなってしまう、という
状況なのかもしれません。
そのため、“悩みを自分で抱える力”というのは、“葛藤を自分で抱える力”とも言えるでしょう。
なんだか曖昧でよく分からない、と思われた方もいるかもしれませんね。
つまり、“なんとなく”感じていることの、その“なんとなく”について
「どうして自分はそう感じているんだろう?」と考えてみる、ということです。
そうやって自分について考えて悩んでいるうちに、「自分って本当はこういう人間だったんだ」と
気づいたり、「これが原因かと思っていたけど、本当はもっと別のことが引っかかっていたんだ」
ということが見えてきたりします。
自分で自分を理解するということは意外と難しいことですが、なかなか面白いことだと思います。
そしてそれは、人生を豊かにしていくことにつながると思います。
カウンセリングでは、来談者の方が自分を理解したり、悩みを自分で抱えたりすることのお手伝いをします。
自分のことをもっと理解したい、悩みを自分で抱えるのが辛いという方は
ぜひ当オフィスにお問い合わせしてみてください。
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WISC-ⅣからWISC-Ⅴの変更点について
ウェクスラー式知能検査は、近年知能を測定するだけではなく多様な認知機能発達の得意な面、
苦手な面といった凸凹を推測するために、とりわけ発達障害の特性把握と支援を目的に使用される
ことが非常に多くなった検査です。
16歳以上の成人向けをWAIS、16歳以下の子ども向けがWISCです。
ウェクスラー式知能検査は常に改訂が重ねられていて、WISCの方は2022年の2月には第5版となる
WISC-Ⅴが発売されています。WISCの方が早く改訂され、数年遅れてWAISが改定されると言う流れに
なっているようです。
当オフィスでも遅ればせながらWISC-Ⅴを導入し始めました。(まだ分析の拠り所となる専門書の類は
日本語版が出揃っておらず、できればもう少し待ちたかったのですが…。)
ウェクスラー式知能検査の改訂はただ問題や統計を時代に合わせるというだけでなく、測定する知能の
概念も含めて改訂が繰り返されているので、言ってしまえばWISC-ⅢのIQとWISC-ⅤのIQでは微妙に
(部分的には大きく)測定しているものが違うといったことが起こります。
それではWISC-ⅣからVとなって大きく変わったなと感じる点を2点だけ、実際に行ってみての感想も交えて
ざっくりとですがご紹介してみたいと思います。
●合成得点の変更
最も目立つ変更点と言えるでしょう。Ⅳでは4つだった合成得点が5つになりました。
合成得点というのは、WISCの検査全体から見る全検査IQとWISC内の検査課題を似た能力を測定している
グループ毎に分けた中で算出した点数のことです。認知機能発達の凸凹を見る場合には合成得点間の差を
見ていきます。
変更点を非常に大まかに言えば視覚的なイメージを扱ったり推理したりする力である「知覚推理」から
立体をイメージしたりイメージを回転させたりする「視空間」と視覚的な手掛かりから臨機応変に推理する
「流動性推理」に分割されたといったところです。
この変更については,確かにWISC-Ⅳ(WAIS-Ⅳもなのですが)を実施していると「同じ“知覚推理”に属する
課題のはずなのに、この課題だけ妙に点数が浮いてしまったな」と良く感じていた部分でした。
そうなると浮いてしまった点数を説明するためにまた分析や解釈をしなくてはならなくなって
結構大変だったのですが、それが概念から整理され、そのような合成得点の中身の課題同士の凸凹は
減るのではないかなと思います。
●ワーキングメモリー概念の違い
合成得点の中でもワーキングメモリーは、特にADHD疑いの場合などに注目されやすく一般的にも
比較的良く知られた概念だと思います。
WISC-Ⅳまでワーキングメモリーは「耳から聞いた情報を記憶する力」でしたが、WISC-Ⅴになると
耳から聞いた情報の記憶力に加えて目で見た情報を記憶する力が含まれている点は大きな違いに思います。
もちろん記憶力には聴覚的なものもあれば視覚的なものもあって、人によってどっちが得意という差があるでしょうし
言われてみればどうしてこれまで含まれて無かったのだろうと思うほどです。
(もちろんこれまでも視覚的な記憶力という見方はありましたが、別の能力を測定することがメインの課題の
結果等から推測する形でした)
これによって多面的な能力であるワーキングメモリーをより実態に即して分析することができ、これまでのWISCでは
見えにくかった得意or不得意がより見つけやすくなったと言えそうです。
その一方で、結果を見た時に、例えば「ワーキングメモリーが高い」という結果の中に実は視覚的記憶力だけが
ずば抜けて高く、聴覚的記憶力は苦手(またはその逆)といった場合が出てくることは注意が必要そうです。
単に「ワーキングメモリーが高い」という結果だけでは特徴を捉えておらず、専門家による解説が
より必要になっているとも言えます。
以上、これ以外にもいろいろ変更点はあるのですが、ちょっと専門的になりすぎるので
とにかく実施していて特に大きな変更だと思った部分だけ感想と言う形で紹介させていただきました。
おそらく今後出版されるWAIS-ⅤもWISC-Ⅴの概念が踏襲されるのかなと思われますが、今回の変更は
検査をとる方にとっても受ける方にとってもより利益を得やすい検査になるのではないかと期待しています。
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