苦手な行動にチャレンジしてみましょう-認知行動療法の行動へのアプローチ-
前回、認知行動療法の認知へのアプローチの1つとして認知再構成法をご紹介しましたが
「考え方は分かってるんだけれど行動は変わらない。いつものように避けてしまう行動がある」
「こんな風に行動すると後悔するのは分かっているのに、どうしてもやってしまう」と
思われている方もおられるのではないでしょうか。
今回はそのような時に、認知行動療法の行動へのアプローチ法のひとつである「行動実験」に
取り組んでみましょう。
「行動実験」とは、簡単に言えば、これまでなかなか取り組めなかった行動を
実験のつもりで取り組んでみましょう、というものです。
実験をするときには思い付きでやってみるのではなくて、まず取り組む前にしっかり
計画を立てます。いつ、どんな状況で、どんな手順でそれをやるのか、その計画を
読んだ人でも再現ができるように計画をきちんと立てます。
その後に、出来上がった計画に沿っていざ実験となります。
予想通りに行って成功したらそれが一番うれしいですが、もちろん失敗もあります。
しかし、そんなときはこれが「実験」であることを思い出してください。
実験で予想を裏切る結果が出た時には、どう予想と違ったのか、そして何故起こったのかを
きちんと分析していきます。予想を裏切る結果自体が今後の貴重なデータになるわけです。
そうしてきちんと振り返りを行うことで、次の実験に活かすための様々なアイディアが
生まれていきます。
さて、ここで行動実験のワークシートを見てみましょう。(こちらからダウンロードできます)
1.実験の状況 2.予想 3.実験のやり方 とあるところに、できるだけ具体的に計画を
作っていきましょう。
例えば「早起きしてちゃんと過ごす」と書いただけでは、何をするのかわかりません。
「月曜日は朝7時に起きて、すぐに洗面所に行って歯を磨く。朝食を食べる。」とすると
何をするかが分かります。
その方がイメージが具体的になるので「やってみよう」と思いやすくなります。
この計画を立てて実際にやってみて、その結果を 4.実際の結果 に書いてみましょう。
うまく行ったのであれば、どんな風にうまく行ったのか。何が良かったのか、など書いてみましょう。
残念ながらうまく行かなかったら、そのデータを活用するつもりで振り返って書いてみましょう。
何が難しかったか?何が予想と違ったのか?
(例えば、朝食の支度をするには台所が寒すぎるのを予想してなかった)
その上で、次にやるとしたらどのように工夫できるか
(エアコンのタイマーを掛けておく/最初は朝食としたけれどもまずはコーヒー一杯に変更する)
など考えてみましょう。
実験ですから結果に応じて目標や方法を変更するのは自然なことです。
すると、第二回目の実験計画が見えてきます。
そうして、最後に感想を書いてみましょう。
認知再構成法もそうですが、行動実験も繰り返していくものです。
一度で完璧な成功を求めずに、大げさではない、ちょっとずつの変化を実感できるような
実験計画を立てることで、これまでできなかった避けていた行動に少しずつ取り組めるようになりますよ。
Lear More心理療法の世界で最近注目されているコンパッションとは?
当オフィスでは、現在コンパッションを取り入れた集団認知行動療法の参加者様を募集しています。
コンパッション、というのは最近少しずつ心理療法やカウンセリングの世界で知られるように
なってきた言葉ですが、あまり聞き馴染みのある言葉ではないと思います。
コンパッションは、日本語では「思いやり」とか「慈悲」などと訳されています。
皆さんは「思いやり」とか「慈悲」と言った言葉を聞いて、どんな印象を持ちますか?
温かい、とか優しい、仏様の慈悲、とかポジティブな印象を持つ方もいるでしょう。
一方で、中には「思いやり」と聞くと、なんだか軟弱で恥ずかしいような、甘えている
ような印象を持つ人がいるかもしれません。
「慈悲」と聞くと、宗教的な感じがして敬遠したくなったり、きれいごとのようで疑いたく
なったりするかもしれません。
「コンパッション」とは、本来は仏教の用語で「自分や他者の苦悩に細やかに心を寄せ、
それを軽くしたい、防ぎたいと強く願い行動にうつすこと」と言われます。
そこには、素朴な意味での思いやりのニュアンスももちろんありますが、自分の苦しさを
きちんと見て、取り組むといった向き合う意味も含んでいます。
コンパッション・フォーカスト・セラピーは「自己批判」と「強い恥の感覚」に苛まれるあまり
うつ病がなかなか良くならない人へのアプローチとして、認知行動療法や仏教、
マインドフルネスの知見を統合して開発されました。
仏教では四苦八苦と言う言葉もありますが、人間には、人間であると言うだけで避けては通れない
苦しみが無数にあると言われています。コンパッションと言うのは、いわばそのような苦しみに
対しての取り組み方を心理療法として取り入れたものとも言えるでしょう。
コンパッション・フォーカスト・セラピーや、コンパッション・マインド・トレーニングといった
これらの方法は、まずはコンパッションがどのようなものかを知るところからはじまっていきます。
自分の内にコンパッションを養うための方法の一つとして、前回のブログのテーマともなっていた
マインドフルネスを活用します。また、様々なワークに取り組んでいきます。
代表的なものに、思いやりのある他者や自分をイメージしてみるというワークがあります。
少し目を閉じて思いやりのある人を想像してみましょう。
どんな人が浮かんできますか?
また、思い浮かんだその人はどんな表情で、どんな言葉をあなたにかけてくれるでしょうか?
そのとき、あなたはどんなことを感じるでしょうか?
そんなところを足掛かりにしながら、自分に、他者に、コンパッションを向けられるように
進んでいきます。
少しでも興味や関心がでてきたな、と思われた方は当オフィスまでお気軽にご連絡ください。
Lear More今、この瞬間に意識を向ける マインドフルネスとは?
私たちは普段自分の価値観や経験に基づき周りで起きている出来事に自動的に反応していたり、
無意識に過去や未来のことを考えて記憶や感情に巻き込まれたりと多くのパワーを消費しています。
そのため、時には心身ともに疲れてきってしまうこともあるのではないでしょうか。
マインドフルネスとは、「今・この瞬間の自分の状態、していること、感じていることに意図的に
注意を向けて気づき、受け止め、味わい、手放すこと」です。
今リアルタイムで自分の中に起きていることに対して、もう一人の自分を置き一歩引いて興味を
持って観察してみます。さらに、観察されたものがポジティブなものでもネガティブなものでも
良い・悪いと評価を一切せず、「あー今自分こんな感じなんだー」とあるがままに受け止め受け入れます。
マインドフルネスを実践することで負の感情や思考に巻き込まれた状態を修正する手助けとなるため、
自己コントロールやストレスの軽減にもつながります。
ここで、一つマインドフルネスを体験するためのワークをご紹介します。
普段何気行っている呼吸に注目するワークです。
①椅子に腰かける、仰向けに寝るなど力の入らない楽な姿勢になります。
②鼻(もしくは口)から息を吸う・吐く を何分か繰り返し、胸やおなかが膨らんだり縮んだりする様子や体内に出入りする呼吸の流れを観察します。
③途中で雑念が沸いてきたら、取り払ったり巻き込まれたりするのではなく、「今、気がそれたな」と雑念が沸いたことを受け止めてまた呼吸に意識を向けなおします。
どうでしょうか?簡単そうに見えて意外と最初は難しいかもしれません。
中には無意識している呼吸に意識を向けることで、息がしにくくなった方もいるかもしれません。
マインドフルネスはすぐにできるものではなく体験や練習の積み重ねが大切と言われています。
カウンセリングでカウンセラーと一緒に取り組むこともおすすめです。
まずはこの記事を読んで、生活の中でふと思い出したときにぜひ実践してみてください。
参考図書
・伊藤絵美 『セルフケアの道具箱 ストレスと上手につきあう100のワーク』 晶文社
・伊藤絵美 『自分でできるスキーマ療法ワークブック Book1』星和書店
スキーマと認知 -認知のクセの背景にあるもの-
認知行動療法では、主に認知と行動のクセを扱っていきます。
認知行動療法で扱う認知は「自動思考」とも呼ばれます。
これは自分で「今日のご飯は何にしようかな」など意図的に考えるのではなく、
何らかの刺激に対する反応として自動で浮かんでくる考えという意味で名付けられています。
私たちは日々、大変多くの自動思考を浮かべながら生活していると言われています。
一日のうちで、本当に何も考えずに無心でいる時間がいったいどれくらいあるでしょうか。
きっとほとんどないのではないかと思います。それだけ私たちの生活は大小の刺激にあふれていますし、
人間は考えることがたくさんある生き物だと言うことが言えるかもしれません。
さて、認知行動療法では自動思考の背景として「スキーマ」というものを想定しています。
「スキーマ」は自動思考のベースとして存在する思考の鋳型と言う風に説明されます。
鋳型と言うのは溶かした金属をそこへ流し込んで形を作るためのもので、金属は鋳型に流し込んで
冷やせば鋳型の形になって取り出されます。
それと同じように、自動思考は日々生活する中でポンポンと浮かんできますが、それらは
そもそもスキーマという鋳型から生み出されるので、いずれもスキーマの影響を受けて
スキーマに似た形、つまり似た考えになっていると言います。
スキーマは幼少期の経験を通して形成されると言われています。
例えば幼少期に自分を守ってくれるはずの大人たちから攻撃されて育ったAさんは
「自分は意地悪な他人に攻撃されて、やられてしまう」というスキーマが発達するでしょう。
そうすると、自動思考はそれらのスキーマを通って出てきますから、Aさんの自動思考は
「あいつは自分を馬鹿にしてるんじゃないか」「自分のことを嫌ってるからこういうことを言うんじゃないか」
といった「他人は敵だ」「身を守れ」という色を帯びることが増えるかもしれません。
スキーマは自動思考以上に本人にとっては「そう考えるのは当たり前のこと」に感じられるので、
自分でその考え方が極端だと気が付くのは困難です。
Aさんにとって、他人が自分を攻撃してくる世界と言うのは極端には感じられず、むしろ経験に
裏付けられた真実であり、当たり前なのです。それだけにスキーマを変えることは非常に難しいと言われています。
スキーマに取り組むためのスキーマ療法という技法も試みられてきていますが、それもまた一朝一夕で
どうにかなるというものではなく、それなりに長い取り組みとなります。
人は誰でもスキーマを持っていますし、多くの場合はスキーマに直接触れなければいけないわけではありません。
まずは自動思考(認知)のクセに気が付き、そのクセに取り組んでみましょう。
その中で自分がどのようなスキーマを持っているのか、徐々に認識できるようになれるかもしれません。
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認知のクセに対処するには -認知再構成法とは-
これまで様々な「認知のクセ」を見てきました。
きっとこれらの「認知のクセ」を全く1つも持っていない、という方はおられないのではないかと思います。
1つだけしか持っていないと言う人も非常に少ないでしょう。
このような「認知のクセ」は、ほとんどの人が複数にわたって持っていると言われています。
例えほとんどに当てはまったとしても、それは決して珍しいことではありません。
認知のクセを持っていない人はおらず、多くの場合そのクセの程度、極端さが問題になります。
さて、ではこれらの認知のクセが強くて普段の生活が苦しい、人と会うたびにストレスに
苛まれるような状況に陥ってしまったときに、この「認知のクセ」をどう扱っていけばよいでしょうか。
このような認知のクセにアプローチするための方法に「認知再構成法」という方法があります。
これは実際のストレス状況と、そのときに浮かんできた自分の認知(認知のクセ)、
そして気分・感情を紙に書きだしてみて、その場面でクセとして浮かんできた認知とは違った
別の考え方、見方はできないかについて検討し書き出してみるという方法です。
認知のクセは、クセと言われる通り自分にとってはなじみ深く意識していなくても思わず
出てきてしまうものです。その認知のクセが出てくること自体を「悪いこと」と思う必要はありません。
ストレスを体験したその瞬間に、他の考え方をするのはとても難しいでしょう。
そこで、少し時間がたって落ち着いてから紙に書き出す形で色々な角度からその場面を検討してみるのです。
気持ちが落ち着いた状態であっても「別の考え方」を見つけるというのは、実際にやってみると難しいと
思いますので、別の視点を得るためのヒントとなるような質問として「自分の認知のクセから出てきた
考え方を信じなければならない客観的な証拠が何かあるだろうか?」
「もしこれが自分の親しい誰かが体験したできごとで、その人が自分と同じように考えて悩んでいるとしたら
その人に自分はどんな言葉をかけるだろうか」と自分に問いかけながら考えてみましょう。
自分とは違う考え方をしそうな身近な人に聞いてみるのも1つの手です。
ためしにここから認知再構成法のシートをダウンロード、もしくは印刷して取り組んでみましょう。
「とても良い」「素晴らしい」考えを書かなければいけないのではありません。
思いついたことはなんでも書き出してみましょう。
最初から上手くやろうと思わず、少しずつ別の視点に気が付けることができれば良い、くらいの気持ちで試してみます。
いくつかの考え方を書き出すことが出来たら、気分の変化、やってみた感想を最後に整理してみましょう。
この作業を繰り返しながら、次第に別の考え方、別の視点を得るコツをつかんでいきましょう。
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